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第1回「今日ある命を明日に繋ぐ」現実と基本を捉えた上で「生きる」を見つめる

侍学園スクオーラ・今人

認定NPO法人 侍学園スクオーラ・今人 理事長 長岡秀貴さん

「生きること」に疑問を持たない

大学時代に初めてフリースクールの存在を知り、全国で150カ所ほど取材して回りました。話を聞いてみると、何かしらの学術的バックボーンや支援スキルを持っている場所は少なく、当時は親の会から立ち上がったところも多かったので、正直、居場所を提供するだけのところがほとんどでした。特に僕が違和感を持ったのは「何でもあり」の状態で、未成年でも喫煙もお酒も許していた。子どもの生活習慣が乱れようと「これがこの子たちの生活。日本社会が間違っているのよ」といった論理ですよね。

そんなこともあり、侍学園(以下、略称サムガク)はあえてフリースクールとは名乗りません。僕が出版した本や学園のホームページには「画一的な教育はしない」と書いたけど、実際ここで行われている教育は、生活習慣の改善や自立といった基本中の基本です。ただ、何が不満だったかというと、子どもたちの学べる場がパブリックしかなかったということ。また、そのパブリックな場も「生きる」ということについてちゃんと伝えられていなかった。だから、僕は自分の理想とする学校を立ち上げたいと願い、その方法論が民間教育というかたちだったのです。

僕が一貫して子どもたちに伝えたかったのは、「生き抜く力」とは「今日ある命を明日に繋ぐこと」だと実感してもらうことでした。具体的には「生きることに疑問を持たない」。いろんな失敗や、他者比較によって自己効力感を喪失していく子たちは、社会と自分はコミットできないと思い込んでいる。でも、それはかなりレベルの高い話です。まずは自分が生きていくために両親が働き、人が1日生きるのにどれだけのコストがかかっているのかを理解したうえで「生きる」を見て欲しい。それを勉強というよりも、いろんなプログラムを通して実践しています。

田植え

卒業条件となる2つの「自立」

学園の運営については、あくまで「学び舎」として貫くことを徹底しています。サムガクは福祉施設でもないし、医療機関でもない。だから治療や保護を目的に生徒を受け入れていません。発達障がいや精神疾患等で認定を受け、手帳を持っている生徒もいますが、本来そうした子たちを就労に導くのであれば、福祉法人の施設認定を受けたほうがいい。経営者からすれば、当然その方が安定した運営を図れます。でも、そうした施設は全国にたくさんある。僕らがやりたいのは、そうした場にも行けない子たちの支援です。実は、その部分には誰も手を差しのべられていない。というのは、客観的に福祉が必要だと見える子でも、本人のほとんどが「俺は福祉じゃない」と思っている。さらに「あそこは障がい者が通う学校」と思われたら、その子たちは絶対に来ません。だから「教育施設」という看板を徹底することで、本当に支援が必要な子に対しても対応ができるんです。

例えば、今はOD(起立性調節障害)が増えてきている。その場合、昼夜逆転している家庭内の生活習慣では絶対に改善しないし、病院に連れて行っても難しい。だけど、サムガクの寮体験に入れると、ちゃんと起きてくるんですよね。他人との共同生活は、今まで自分が信じてきた文化の崩壊なんです。依存できる場所がないから従うしかない。僕らは強制的な指導は行わないし、うるさいことも言いません。でも、集団生活では自分が朝起きないことで迷惑がかかる。そこで初めて自己責任が問われ、社会というものに触れるんです。そのため、生徒たちの成長度合いを見ると、自宅から通う通学生より寮生のほうが圧倒的に変化が早いのです。

デッサン風景

僕の考える「自立」はすごく明確で、それ自体がサムガクの卒業基準にもなっています。プログラムを終えると「修了生」にはなれますが、「卒業生」にはなれません。進学しても、就職しても同じです。自立の条件は2つあって、「経済的な自立」と「精神的な自立」です。その2つを僕も含めたスタッフ全員が認めて初めて卒業式に立てる。まず、「働く」は外せません。寮を出た子たちは、みんな一人暮らしを始めますが、およそ7、8万円程度の給料の中から家賃、生活費、授業料を払っていくと、ほとんどジリ貧状態になっていく。でも、そのジリ貧を経験することで今まで自分がどれだけ人に負担をかけてきたかを実感する。すると、ちょっとしたことで仕事を辞めようとはならないし、辞めたとしても次への動き出しが全然違います。もちろん、向き不向きがあって、もともと人間関係が得意な子たちじゃないから、すべてがパーフェクトにはいかない。だけど、ほかの社会人と同じスタートラインに立てたことには変わらないから、それが「卒業」のポイントになる。具体的には、「就労が6か月以上続いている」、「自分の給料から生活費、授業料を支払える」が基準となり、あとは学校以外の第三者、特に職場の人との人間関係が築けているかを重視します。

それから、本人の自己認知と親の理解でしょうか。苦戦している家庭には、その家庭が内包している「文化的貧困」が存在します。それは客観的に見て間違いなく家庭が崩壊していても、「これがうちの考えです」と返されてしまう状態です。要は言葉の中で自分たちの文化が正義であり、これがジャスティスだと生きている。そのとき言葉で論戦しようとしても無理だから、「とりあえずやってみよう」とプログラムを提案していくのが僕らのやり方なのですが、その中で、最終的に家庭の文化を取るか、自分の未来を取るかで変わってきます。最終的に家庭の文化を優先した子たちはみんなサムガクから離れて行きました。でも、そうした子たちを「卒業させない」のも、戻ってくるチャンスを確保しておきたいからなんですね。だからこそ、僕らは「卒業」のハードルを高く設定しているんです。

「夢を持つ」という幻想と 命を繋ぐための「ライスワーク」

「働く」に対しては、特に疑問を持って欲しくない。仕事の適性とか言われるけれど、僕は「働く」には、ご飯を食べていくための仕事―Rice Work(ライスワーク)と、自分の好きな仕事―Like Work(ライクワーク)の2つがあると思う。基本的には「ライスワーク」は有無を言わずやりなさいという方針で、それを担保したうえで「ライクワーク」が成り立つ。僕自身、サムガクを立ち上げるために様々な仕事を経験した。今でも学校の運営資金のために、地方の病院まで出稼ぎしている。夢を成功させるには、挫折が伴い、それなりのポテンシャルとモチベーションが必要となる。「食べること」「雨風しのぐ場所の確保」がなければ続きません。

だから、小中高校といろんな講演会に呼ばれても、僕は「夢を持て」とは絶対に言わない。むしろそうした幻想を取っ払ってあげたいんです。それよりも「生きるために必要なものは何か」を気づかせることです。それは「食べること」「住居の保証」「安心と安全」です。これは学校の先生もぼんやりとはわかっていても、どう伝えて良いのかがわからない。特に一番イメージしにくいのが「安心と安全」。人がある地点からある地点まで移動するとき、どうして安全に生きていられるのか。なぜ交通事故に遭わなかったのか。それはこの国の安心と安全が保障されているからです。そして、そうした社会を形成する国家を成り立たせているのが税金ですよね。つまり働いて税金を納め続けない限り、僕らの安全と安心は保証されない。それが今のパブリックな教育で教えきれていない部分なんです。

授業風景

小児科は苦戦する母親が唯一足を向けるゲート

現在、学園の運営と同時に、千葉と沖縄の小児科で小児総合支援士として勤務しています。小児科へ訪れた患者に心因性の要因が見られたとき、他の機関へ繋げたり、カウンセリングを行う役目です。

僕がこれまでずっと戦い続けてきたのが、家庭との関わりでした。サムガクの教育はあくまで対処療法でしかない。例えば、今41歳の生徒や20年間引きこもっていた生徒がいます。彼らはここで頑張って少しずつ変化してきている。それは良い結果なんだけど、どうしても「41歳」や「20年」というものが引っ掛かる。問題の根本は絶対幼少期から始まっていたのに、家族が長年それに気づけなかった。まして問題意識がないから、誰にも相談していない。当然ですが、母親は自分の子どもが発達障がいだったり、不登校だったりとカテゴライズされることを拒みます。でも唯一、母親が足を向けるゲートがあった。それが小児科だったんです。つまり、心の病でも発達の課題でもなく、一時的な身体の不調、器質的疾患となれば堂々と母親たちはゲートへ向かう。そこでドクターから心因性だと言われ、僕の小児総合支援士としての出番がきます。

僕は、まず母親との時間をたっぷり取り、母親がこれまで孤独に戦ってきた事実を認めてあげる。間違った意見ばかりで腹も立つけど、まずは受容していく。これまで承認されてこなかったからこそ、たった一人でも僕と繋がれると、今度は母親の方から委ねてきます。しかし、ここで大切なのは、最終的には子どもを助けたいということです。そのためには、まず主導権を握る母親をこちら側に引き込まなければいけない。安易に母親を批判したりすると、関係性が切れてしまう。それでは子どもを助けられない。でも、それが上手くいったときのその後の好転率は80%を超えます。

だけど、こうした支援は学校には向かないと思う。現実的に母親も子どもも、学校には本音や弱音を吐きづらい。吐いたとしても学校のスキームに準じなければいけない部分が必ず出てくる。だから僕は学校の教員やスクールカウンセラーといった立場の人が心理学を学んでサポートすることを推奨していません。学校は学校としての役割を担って欲しい。それよりも、メンタルハザードを起こしたり、不全が始まったときにサポートできる社会的資源の体制をもっと整えていく必要があると思います。

※「不登校生支援」夏号(学びリンク)より

映画『サムライフ』DVD&ブルーレイ 2015年8月4日発売

27歳、元高校教師。全財産725円。だけど「学校」作ります! 小さな町で、社会を本気で変えようとした若者たちが歩んだ奇跡の実話を映画化!

映画サムライフ

長岡理事長の著書を原作に、今年2月から全国映画館で放映された映画『サムライフ』。理想の学校設立を目指して奮闘する長岡理事長を人気若手俳優の三浦貴大さんが演じ、そのほか大杉漣さんや松岡茉優さんなど豪華キャストで贈られます。学校に行けない子どもやその家族との関わりに葛藤しながらも、それぞれの問題に真剣に向き合っていこうとする主人公の姿に胸が打たれます。人間ドラマであると同時に、子どもたちを取り巻く様々な課題について考えさせられる作品です。

映画サムライフ

「サムライフ」
Blu-ray:5,000円+税 PCXE-50530
DVD:4,000円+税 PCBE-54830

【初回特典】
特典映像
●未公開シーン
●メイキング
●舞台挨拶

封入特典
オリジナル ブックレット
長野県上田市ロケーションマップ

発売元:アットムービー
販売元:ポニーキャニオン


監督:森谷雄 脚本:及川拓郎 音楽:原田智英

<キャスト>
三浦貴大 松岡茉優 加治将樹 柾木玲弥 山本涼介 岩井堂聖子 岸井ゆきの 蒼波 純 山田望叶 マキタスポーツ きたろう 渡辺 大 佐藤めぐみ・大杉 漣 ほか

【School Data】

認定NPO法人 侍学園スクオーラ・今人

認定NPO法人 侍学園スクオーラ・今人
〒386-1323 長野県上田市本郷1524-1
TEL / FAX:0268-38-0063

上田交通別所線「神畑駅」から徒歩10分
上信越道「上田菅平 IC」から20分
http://www.samugaku.com

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